地理

荒川はAra Riverではない!?ー「地名の英語表記」についてー

今回のお題は「地名の英語表記」です。

 

道路などで見かける地名の英語表記で、時々、違和感を感じるものがあります。

荒川 → Arakawa River

普通に考えると「Ara River」になりそうです。「Arakawa River」では”川”がダブってますよね。

誰が決めてるんだよ!と思って調べてみると、国土交通省の国土地理院で定めていることが分かりました。外国人観光客が増加していることや、2020年に東京オリンピックが開催されることもあり、「外国人にわかりやすい地図表現検討会」を設置して検討を重ねていたようです。(報告ページはこちら→ http://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/kihonjohochousa41015.html )

 

ザックリ説明すると、ルールは2つ。

①置換方式・・・地形や種別を表す部分を英語に置き換える。「富士山」の場合、”山”を”Mt.”に置き換えて「Mt.Fuji」となる。

②追加方式・・・全体を固有名詞として扱い、地形や種別を表す英語を追加する。「荒川」の場合、”Arakawa”に”River”を追加し「Arakawa River」となる。

ここで疑問に思うのが、②の方式の必要性です。全部①で良いのでは?と思ってしまいます。検討会の報告書によると、「日本人が認識し辛くなるものは②を使う」とあります。確かに、最初に例に挙げた「荒川」は、”Ara River”という表記でみるとピンときませんね。

そして、さすが国土地理院!この「日本人が認識し辛い」を、ちゃんとルール化しています。

概要をまとめると、

ア・・・地形を表す部分が標準の読みではない(「大山(だいせん)- Mt.Daisen」など)

イ・・・地形を表す部分の直前が促音(「月山(がっさん)- Mt.Gassan」など)

ウ・・・地形を表す部分の直前が助字(「八ヶ岳(やつがたけ)- Mt.Yatsugatake」など)

エ・・・固有名詞部分の読みが1音拍(「恵山(えさん)- Mt.Esan」など)

オ・・・固有名詞部分の読みが2音拍で漢字1文字(「立山(たてやま)- Mt.Tateyama」など)

カ・・・固有名詞部分の読みが2音拍で漢字1文字以外、かつ、山・湖・岬(地形を表す英語が先頭に付くもの)(「加波山(かばさん)- Mt.Kabasan」など)

となります。ここに挙げたものは「追加方式」、それ以外は「置換方式」での表記となります。ただし、例外があります。

 

オの例外・・・「鴨川(かもがわ)」

鴨川は、高野川と賀茂川が合流してできているので、合流地点より上流は賀茂川(かもがわ)なのです。「加茂」が使われている地名も多くあることから、「鴨」ではなく「加茂」のほうでルールを適用するとのこと。つまり、オには該当しないので「 Kamo River」と置換方式での表記になります。

 

カの例外・・・「富士山(ふじさん)」

誰でも知っている「富士山」は英語表記(Mt.Fuji)も有名です。ルールからすると追加方式での表記になってしまいますが、「固有名詞部分が近隣の地域名や居住地名、公共施設名などに使用されている場合は除く」という例外ルールがあり、「Mt.Fuji」と置換方式での表記になっています。

 

置換方式の例外・・・「江戸川(えどがわ)」

「江戸川」は上で挙げた追加方式のルール(ア~カ)に該当しないので置換方式になるはずですが、「富士山」の例と同じ理由(固有名詞部分が近隣の地域名や居住地名、公共施設名などに使用されている場合は除く)で追加方式での表記「Edogawa River」となっています。(「江戸川区」のように使われている)

 

例外として挙げられている「富士山」や「江戸川」から分かることは、「ルール策定以前に広く使われているものは、ルールを適用せずそのまま使う」ということですね。ここで紹介した以外にも細かい例外がたくさんあるので、詳細については国土地理院が公開している検討会報告書や規定をご覧下さい。

■検討会報告書 (平成28年1月6日公表) http://www.gsi.go.jp/common/000111876.pdf

■地名等の英語表記規程(平成28年3月) 国土交通省国土地理院 (PDF, 216KB) http://www.gsi.go.jp/common/000138865.pdf

 

良く考えられたルールだなと感心しましたが、「正解かどうか、どうやって確認するの?」と思い、国土地理院に英語表記の一覧などがないかメールで問い合わせてみました。

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現在、国土地理院として作成したものはありませんが、今後、本規程に従った英語名を表記した地図については、100万分1など小縮尺の地図から作成・公開していく予定です。

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とのことです。残念ながら、今のところは標識などの実際の表記を確認するしかないようです。